杏子は足立と鳥山のやり取りを聞きながら、少し目を伏せたまま黙っていた。その沈黙は一瞬だけだったが、どこかに葛藤を滲ませているようにも見えた。やがて彼女は小さく頷き、真剣な表情でこう言った。「姉さんと話をしてきます。」彼女は席を立つと、スナックの扉に向かった。

「おいおい、急くなって!」足立が慌てて声を上げるも、杏子は振り返ることなく扉に手をかけた。扉が静かに閉まり、スナックには彼女の残した余韻だけが漂った。

リリーがその様子を見て、「さて、嵐の予感がしてきたけど、大丈夫かしら?」と小さく呟く。

鳥山はどこか満足そうに頷きながら、「どっちに転んでも、波が立ちそうだな。」と旨い返しをして得意げにグラスを掲げ、「ここは傍観だな」とにやりと笑った。

足立はその言葉に即座に反応し、「馬鹿かお前は!」と舌打ちしつつ立ち上がった。

リリーが軽く眉を上げて問いかける。「まさか追いかけるの?」

足立は扉の方に向かいながら振り返る。「あの子、突っ走るとロクなことにならないから。傍観なんてできる状況じゃないし。社長のところに行くみたいだから、俺も行ってくる。」

そう言い残し、足立はスナックを飛び出していった。

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