時間が流れる中で変わりゆく風景は、田舎よりも都会の方がその変化を鮮明に映し出す。しかし、どんなに変化しても、都会の夜は同じような喧騒に包まれている。

街の賑わいは、杏子に新たな生活を提供しながらも、彼女の心の隙間を埋めるには至らなかった。10年前、父の死と姉との激しい衝突を経て故郷を離れた杏子は、自らの力で生きるためにプログラミングのスキルを磨き、技術者としての道を切り拓いてきた。

杏子の部屋の窓には無数の街灯が映り込み、ぼんやりと揺れていた。机の上のノートパソコンの画面にはコードの羅列が映し出され、通知音が時折静寂を破っては消えていく。モニターに映る膨大なコードの羅列との睨めっこ。それが杏子の日常だった。完成したプロジェクトや、同僚との成功の共有は、一時的な充実感を与えてはくれるが、一度切り離した家族の記憶は、杏子の心の隅にずっと張り付いていた。

画面越しに映る自分の姿が目に入り、ふと彼女は手を止めた。目の下にうっすらと浮かぶクマと虚ろな表情が、日々の疲れと何か言いようのない欠落感を映し出している。困ったことに、忙しさの中で忘れたいと思ってきたものが、こうして時折静かに現れる。

机の端に置いてあったスマートフォンが震えた。画面に「車田」の名前が表示される。車田は杏子の幼馴染で、地元でスナックの仕事を続けている数少ない旧友だった。彼女からの連絡は珍しいことで、杏子は一瞬ためらいながら電話を取った。

電話の向こうからの声には、普段の朗らかさがなく、どこか張り詰めた緊張が含まれていた。短く伝えられた内容に、杏子の胸が重くなる。「お母さんが倒れた」という事実が静かに響き渡り、頭の中で反響する。車田の説明は簡潔だったが、それでも状況の深刻さを伝えるには十分だった。

電話を切った後、杏子は椅子に深く座り込んだ。机の上には、かつて父のために始めたプログラムのノートが開かれたままで、何も言わず彼女を見つめ返しているようだった。杏子はそのノートを手に取り、中の未完成のコードに指を滑らせた。父を助けるための夢が記されたそのページが、突然現実と過去をつなぎ合わせたようだった。

荷物を詰める手は重たかった。スーツケースに何を入れるべきか考えながら、頭の中では10年前の記憶が浮かび上がる。父の死、柚との別れの言葉、そして自分が背を向けた家族の姿。それらが次々に押し寄せ、彼女の胸を締め付けた。

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