「アルカの板」
■モノローグ
誰もが架空の『箱舟』に辿り着く為に必死に生きている。
小さな楽園に続く行列の中で、前の人は「押すな」と私を睨みつけ、後ろの人は「早く進めっ」と罵声を浴びせる。
ようやく辿り着けたとしても、そこに待っているのは多数決が支配する世界。
皆が皆、選択を間違えると箱から弾かれるから、いつでも少数派にならない様に誰かのご機嫌を伺う。
子供の頃に遊んだ「花一匁」は、大人になったら、もっと酷い形をして私の目の前に現れた。
誰もが自分を守る為、大事なモノを守る為、一杯一杯になりながら、一つの板にしがみついている。
そんな光景は、私には、まるで『カルネアデスの板』のように見えるんだ。
アナタはアナタの愛の為にキミを見捨て、キミはキミの為にアナタの希望を殺すんだ。
「愛錠と言う名の鎖」に繋がれた人々は、生まれた時からすでに追い詰められた姿をしているのかもしれない。
簡単な話だ。
私は、ただ、お父さんから受け継いだコノ漁船を死んでも守りたいと思った。
アンタの正しさが私から船を奪うのならば、私は私の正しさでアンタを否定してやる。
「性善説を謳う君」と「性悪説を突きつける私」
正義と言う名の武器は、振り翳された相手には、悪という名の凶器に変わる。
きっと、この世に善意も悪意も存在しない、ただ、ただ、自分を守る為の方法論。
だからこそ、私は私を否定することにした。
コレは、ある漁港を舞台に自己中心的な世界で生きる私達が贈る希望論についての物語。
気分はいつでも宜候。