シークエンス⑦ クライマックス

トニーとシャーリーはアラバマ州に到着し、今回の目的でもあったクリスマスコンサートの準備を始めます。
シャーリーは一見歓迎されるように見えますが、控え室が物置であることなど、依然として人種差別の問題が色濃く残っています。

シャーリーが物置で着替えをしている間、トニーはレストランへ行き、トリオのメンバーと合流します。
レストランでは、白人だけが食事を楽しみ、配膳係はみな黒人ということで、差別が露骨に表現されています。
トニーはメンバーの男からナットキングコールがバーミングハムで襲われた事件について聞かされます。
ここで、シャーリーがこのツアーを組んだのは、過去の差別に立ち向かうためであったことが明らかになります。
彼は勇気が人の心を変えると信じており、それが彼の行動の動機でした。

胸熱ですね。

そんな話を聞いていると、衣装に着替えたシャーリーがレストランにやって来ます。
しかし、コンサート会場内のレストランの入店を断られます。
さすがに我慢ができなくなった彼は、もし差別で食事ができないなら演奏もしないと宣言します。

そこで間を取り持つのがトニーです。
彼の目的は無事ツアーを終わらせて家に帰ることなので、ここで演奏会が中止になっては、報酬は半分しかもらえません。
つまり窮地です。
そんな中、支配人がトニーを個別に呼び出し、金で買収しようとします。
これは前にトニーが警察にやったことですね。
立場が逆転し、うまく対になっていると思いますが、そこでのトニーにリアクションは、支配人から屈辱的な行為に腹を立て、殴りかかろうとします。
殴ってしまってはこの企画は終わりです。絶体絶命のピンチでしたが、ここでシャーリーが現れると、「感情的になることは負けだ」と説得します。
トニーはなんとか感情を抑えるも、演奏会に出演をするのはやめて、黒人が集まる別のレストランへ向かうことにします。

先ほどの気品のあるレストランとは異なり、労働階級が集まる賑やかな黒人レストランに訪れた二人。
ここでトニーがシャーリーのことを「世界一のピアニストだ」と紹介したことがキッカケとなり、ステージで演奏することになります。
ここでシャーリーが、ピアノの上に置いてあったウイスキーを退けて演奏するのですが、シークエンス⑥にあった伏線で、彼はどんな状況であろうとも、自分の演奏スタイルを崩さないという貫通行動が見事だと思いました。

ピアノを演奏し、そこでの演奏が彼の芸術性と人間性を際立たせます。

演奏会を楽しんだ後、その帰り道で、トニーは車上荒らしに遭遇し、以前にほのめかされた銃を使用して発砲します。
これは以前からのシークエンス⑤伏線回収で、その時は、銃を持っている振りをしていたという話でしたが、実際は所持していたというオチですね。
この作品は本当に細かいところまで伏線を張っていて面白いです。
そして、この辺りから怒涛の伏線回収が始まります。

シークエンス⑧  伏線回収

トニーとシャーリーは早急に帰路につきますが、拳銃所持の一件があったからでしょうか、翡翠石の盗難も見抜かれてしまいます。

その後、雪の中、トニーとシャーリーは再び警察に止められます。
なんとしてでもクリスマスの夜には家族の元へ帰らなければならず、二人は焦燥します。
これまでなら、シャーリーがまた侮辱的な対応を受けてしまうところですが、この日は特別です。
警察にパンクを指摘されるだけですみ、事なきを得ます。
もしかすると、クリスマスの魔法なのかもしれませんね。

その後、家路を急ぐトニーでしたが、ここで思わぬトラブルが!
トニーの睡魔です。
これまで休まず働き詰めだったトニー。
疲労困憊で睡魔に襲われ、仮眠を求めます。
しかし、ここで寝てしまってはクリスマスの夜には辿り着けません。
大ピンチです。

さあどうなるのか!?

一方、トニーの家族たちがクリスマスの準備をしていると、車の後部座席で眠ってしまっていたトニーが目を覚まします。
すると、そこはトニーの家の前。
一瞬、「どうなっているんだ!?」と思いますが、なんとトニーが仮眠を取っている間に、雇用人であるシャーリーが運転を引き継ぎ、トニーを無事、家の前まで送り届けるのでした。

その後、トニーはシャーリーをクリスマスの祝いに招待しますが、シャーリーは自分が黒人であることを理由に断ります。
シャーリーは、一人自宅でクリスマスを過ごすことを選び、その孤独なシーンは、彼の内面的な葛藤と孤立感を強調します。メタファーとして、高級な椅子のカットを抜くとか本当に上手いですね。
そして、注目すべき小道具は翡翠石。
これはトニーとの絆でもあり、勇気を与えるためのお守りの石でもあるからです。
シャーリーは翡翠石を見つめ考えます。
そして……

その頃、無事、質屋に出していた時計を取り戻したトニーが自宅で安堵していると、身内の人間から「旅の話をしろ」と言われますが、身内の人間が黒人を侮辱する発言をしたことについて注意します。
オープニングシーンと比べ、トニーが大きく成長していることが分かりますね!

そんな時でした。
ドアベルが鳴り、トニーが玄関を開けると、そこにはシャーリの姿が。
ちょっとした時間ですが、この感動の再会に心が震えます。
最終的にシャーリーは、勇気を振り絞ってトニーの家を訪れたことがわかります。
一瞬、戸惑う家族たちでしたが、トニーの妻がシャーリーを温かく迎え入れると、「手紙をありがとう」と感謝します。
これは、トニーが書いていたロマンティックな手紙は、すべてシャーリーが指南していたことを知っていたという、最高にシニカルで素晴らしい伏線回収で幕を閉じるのでした。


グリーン・ブック。
いかがでしたでしょうか?
僕も改めて分析してみて、本当に素晴らしい作品だと感動しました。
思っていたより、人種差別が色濃く残っている印象で、不快に思ってしまったらごめんなさい。
早く、そういった差別がなくなりますようにしていきましょう。

TOP